5/19/2008

プロヴォークの時代



東京都写真美術館で5月13日から6月29日まで開催している「森山大道展」に行ってきた。
森山大道とは「アレ、ブレ、ボケ」で代名される路上写真家である。最近では荒木経惟と対比されることも多い。
森山大道の作品を見るのは久しぶりのことだ。思えば雑誌や写真集で見たことはあっても、写真展という形でプリントを見るのは初めての体験であった。しかるに、その作品の持つインパクトには圧倒された。作品として成立するには、それが写真である場合被写体が写るという以上のものがそのプリントに定着されていることが必須であると思う。土門拳がある弟子の写真を見て、画面上の何もない部分を指して「ここが美だな」と言ったのは有名な話である。
森山大道が「アレ、ブレ、ボケ」にその表現の活路を求めたのは、既成概念としての写真に対するアンチテーゼであった筈だが、それらの作品のなんと美しいことか。「美しい写真」の対局として撮られた筈の写真のもつ美しさに衝撃を受けた。
開高健は本当の意味でのノンフィクションは存在しない、どんなものであれ、それが作家の手を経たものである以上、作家の意図が反映されたフィクションとなると言っている。森山大道の写真ではそこに写っているものが標本であっても、犬であっても、新宿の街頭であっても、ブエノスアイレスであっても、ハワイのビーチであっても森山大道を感じさせる。それは「アレ、ブレ、ボケ」という表現の手法だけによるのではなく、如何にその被写体に肉薄するのかというアプローチによるのである。そしてそのアプローチこそが“プロヴォーク(=挑発)”なのだ。
作品展は二部構成となっていて、森山大道の軌跡をたどる「レトロスペクティブ」と最新作「ハワイ」からの展示に分かれていたが、まだまだその活動は途上を思わせる。プロヴォークは続く。